情報の発信量とリーチ数にこだわりブランドイメージを醸成する「広報ファースト」組織が強み|近畿大学様

2024年04月05日(金) 事例紹介
近畿大学 経営戦略本部 広報室 課長補佐 村尾友寛氏

2024年には11年連続で志願者数日本一の大学となった近畿大学(通称:近大)。その原動力のひとつが広報PRであることは、よく知られています。あらためてお話を伺いました。

近畿大学の広報体制と、目的をおしえてください。

広報室は14名体制です。人数が多いと思われますよね。大学を経営という側面からみたときには、志望してくださる受験生は「お客様」とも言えますが、他の大学では入試課が担当するような業務、たとえば入試説明会の開催や、オープンキャンパスなどの業務も広報室で担当しているのが本学の特徴です。

広報室が入試課の業務も担当するという近大。一般的な企業でいえば、広報部とマーケティング部が一体になっている状態と言えそう。

なお、私を含めた広報室のメンバーはジョブローテーションによって配属されていますので、広報PRが得意なスタッフを選んで採用しているわけではありません。

それで成果を出し続けているのは驚異的ですね。

組織全体に「広報ファースト」の文化が浸透しているからだと考えます。やはり、大学の上層部が姿勢を明確に打ち出したことが大きいと思います。

マグロ養殖で知られる近大。情報発信の強さは組織文化にあり、その文化を作ったのは上層部だという。

現在の広報部門の責任者が2007年に本学に入職して以来、広報におけるリーダーシップを発揮していることは、さまざまなメディアで報じられているとおりです。広報が主体的に話題づくりを仕掛けていく文化を築いたことが功を奏したと考えています。

常に流行の先端をキャッチされています。

広報室のスタッフとして、そこは相当に意識しています。まして我々が相手にするのは流行に敏感な10代の若者ですから、ウソはすぐに見破られてしまいます。

開放的で、先進的な雰囲気の学内。

若者のトレンドをきちんと把握して、それを情報発信に取り入れる必要があると考えています。特別な情報源をもっているわけではありませんが、近年であれば多くの若者が利用しているとされるTikTokは毎日欠かさずチェックしています。

広報を目的にしたオウンドメディア開設も、相当早いタイミングでした。

「Kindai Picks(キンダイ・ピックス)」の開設は2015年10月ですので、もう8年くらい前ですね。今でこそ多くの大学がメディアを運営していますが、大学発のキュレーションサイトとしてはおそらく日本初だったと認識しています。

近大が運営するメディア「Kindai Picks(キンダイ・ピックス)」。

当時はオウンドメディアといいますか、「キュレーションサイト」こそが時代の最先端だという意見が部署内から出て、それで「NewsPicks」さんを参考にしたことは、サイトの名称からも一目瞭然ですよね(笑) サイトの半分は学内のあらゆる情報をキュレーションして掲載し、もう半分はオリジナルの記事を制作しています。

すべての記事を学内で制作されているのですか?

いいえ。オリジナル記事の制作は編集プロダクションに委託しています。企画の方向性は広報室と編集者で会議をして決めていますが、実制作では各分野の専門家に頼るというのが我々の方針です。

すべて内製するのではなく、各分野で、プロの力を借りている。

最近はYouTubeチャンネルなども運営していますが、動画制作もやはり、専門のプロダクションにお願いしています。

KindaiPicksの運営にあたって、スタッフが追求するKPIなどはあるのでしょうか?

ページビューによって評価しています。記事の閲覧数がすべてです。もちろん情報発信の仕事においては「読まれなかったけど、良い内容だった」という考え方もあると思います。しかし我々はどれだけ多くの人に触れてもらえたかを重視しています。とにかくリーチ数を稼ぐことが、ブランドイメージの醸成につながると考えて様々な企画を実施しています。各記事のビュー数はサイト上に公開されており、ごまかしは効きません。その中で、10万ビューを超える記事を年間何本作ろう、といった目標を設定し、勝負しています。

通常の広報活動、リリース配信においても同様の考え方なのでしょうか?

そうですね。広報室では年間500本以上のリリースを配信しています。まずは情報の発信量にこだわっています。ここはシステム化されているんです。本学は幼稚園から大学院まであり、キャンパスも西日本に6つ、病院も2つ。マグロを養殖している水産研究所をはじめとした研究所もたくさんある大きな組織なのですが、それぞれの部署に広報担当者を設置して広報室に情報を上げましょう、というルールが整備されています。月に何本のリリースネタを出すことができたかは、部署別のランキングが発表され、評価の対象になっています。

まず情報の発信量にこだわる。とにかくリーチ数を稼ぐことが、ブランドイメージの醸成につながると考える。

広報室にネタを上げないというのは、本学の魅力を外に発信する機会を逸しているという考え方です。このように情報を吸い上げる仕組みも、トップダウンで決まったことです。

広報室の皆さんの働き方をおしえてください

プレスリースについては、ひとり月5本程度、多い月には10本以上担当することもあります。各部署からネタを上げてもらう際のリリースのフォーマットが決まっていまして、タイトル、写真、3つのポイント、特に押し出したい点、お問い合わせ先というフレームがあるのです。ですから広報室に上がってくる段階で素案が出来上がっており、広報室のスタッフが直接現地に赴いて教員などからヒアリングをするような作業はありません。プレスリリースに関しては担当者にもよりますが、私自身は業務全体の20%くらいのイメージです。

プレスリリースは、ひとり月5~10本書く。フォーマットを決めているのでスムーズに配信まで進められる。

ほかの業務としては、先述のとおり入試説明会やオープンキャンパスといった業務もありますし、取材対応やメディアプロモートのようないわゆる広報業務ももちろん行っています。記者さんとの懇談会も開催しています。実際にキャンパスに来て頂いて「近大って面白いな」と思っていただき、その後の取材に繋がるような関係構築をしています。

今後の展望を教えてください

本学はこれまで、積極的な情報発信や尖った広告展開で話題化し、大学の認知やブランド力を高めてきました。これからもその強みを活かすのはもちろんですが、それだけに捉われずにどんどん新しいチャレンジをして、受験生を中心としたステークホルダーの皆様に選ばれる大学であり続けることが目標です。今後も近畿大学にご注目ください。

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