本気で学べる広報! ポリコレを知り誠意のPRに生かす

2021年12月15日(水) PRのヒント
Political Correctness(ポリコレ)を理解せずに広報活動はできない時代です。

その日「しないことをする」という決意表明がニュースになった

2021年3月、花王が今後、全てのブランドでこれまで使用してきた「美白」という表現を使用しないと発表。一方でファミリーマートが販売する肌着のカラーを「はだいろ」と表記していたことで、不適切だという指摘が相次ぎ、自主回収を決定。その後「はだいろ」を「ベージュ」に変更する事態に発展しました。

実はこの前年の2020年6月、英・ユニリーバなど欧米の化粧品企業が相次いで「美白」という表現を廃止する表明を行っています。これはブラック・ライブズ・マター運動に端を発するもので、「白い肌こそ美しい」といった固定観念を助長し、人種差別につながるという指摘に応える方針転換だったのです。

今回この事象にまつわる社会的背景を広報PR的な文脈で紐解いた上で、PRに生かすにはどうすれば良いのか考えてみようと思います。

ポリコレとは?

さて、みなさんは「ポリコレ」という概念をご存じでしょうか。

ポリティカル・コレクトネスの略で、社会の特定のグループのメンバーに不快感や不利益を与えないように意図された言語、政策、対策を表す言葉であり、人種・宗教・性別などの違いによる偏見・差別を含まない中立的な表現や用語を用いることを指します。一言で言うと、政治的正しさ。「差別的な表現をやめよう」という意味を指します。

かつて白人優位主義の中で黒人は欧米でその「肌の色」を嘲笑の対象にされ差別されてきた時代がありました。もちろん我々日本人を含むアジア人もその対象です。今尚その差別がなくなったとは言い切れません。

そこで欧米を中心に近年、この「ポリコレ」が叫ばれるようになり化粧品ブランドなどが「美白」の撤廃を表明するに至りました。

職業の通称や制服にも変化が

さらにこの「ポリコレ」的な文脈は職業差別を想起させる名称の撤廃にも適用されるようになります。

例えば、男性を連想させる「カメラマン」は「フォトグラファ」に。女性を連想する「保母さん」は「保育士」。「看護婦」は「看護師」になり、「スチュワーデス」は「キャビンアテンダント」といった、性別に寄らない名称に変更されています。

服装の常識も近年変わりつつあります。かつて多くの病院で看護師の制服といえばスカートが常識でしたが今やほぼパンツスタイルに変わりました。

また、特定の指向性が非難されたり、侮辱の対象になることがこれまで数多くありました。しかし今や「LGBTQ」という概念が広く浸透、特定の性的指向を差別、排除することなく受け入れる社会へ変化してきています。

Gender Equality(ジェンダー・イコーリティー)は、文化・社会面での男女格差の是正を指す用語です。

ミスコンの廃止

さらにルッキズムを助長するとして容姿の美しさを競い合うミスコンを廃止する大学も、ここ数年で続々と増えています。上智大学もその一つ。従来の「ミスコン」を廃止し、2020年に新たに「ソフィアンズコンテスト」を開催。「ミス・ミスター」といった男女の区別をなくし、内面も審査の対象に。容姿だけで評価されることを避けるため、審査基準も大きくアップデートされ、賛否はあったものの大きな話題を呼びました。

上智大学の「ミスコン廃止」は多くのメディアに取材されました。

ヘイトスピーチ解消法

そして2016年には「ヘイトスピーチ解消法」が施行。ヘイトスピーチとは「日本以外の国や地域の出身であることを理由にして社会から排除することを扇動する不当な差別的言動」とされています。つまりこれは日本で初めて人種差別をなくすために作られた画期的な内容で、もちろんポリコレ的な文脈線上にある法律といえます。

「ポリコレ無視」と批判された炎上の事例

c社外への情報発信はもちろん、株主や従業員等、全てのステークホルダーに対しても「ポリコレ」を遵守する規範意識は重要です。事実、「ポリコレに反する」との指摘を受け炎上する事案が続々発生しています。ということで、ここで国内で実際に起こったポリティカル・コレクトネスを巡り論争を呼んだ事例を二つ取り上げてみます。

① 「お母さん食堂」への抗議活動

2020年12月、ファミリーマートのお惣菜ブランド「お母さん食堂」の変更を求めて、高校生がインターネット上で署名活動を行いました。抗議の背景は「食事を作る役割を女性にのみ押し付ける印象を与えかねない」という理由からです。もちろん賛同の声だけではなく「やりすぎ」や「言葉狩りに過ぎない」という活動への反発の声もあがり、賛否両論様々な声が吹きあがりました。

ガールスカウト日本連盟が高校生に協力。

騒動当時は名称変更には至らなかったものの、2021年10月「お母さん食堂」は「ファミマル」と改名。ファミリーマートはこれを「抗議活動を受けた結果ではない」と公式に発表していますが、やはりマーケティングにおいてもポリコレの理解が必要である事は確かでしょう。

② 東京医大の不正入試問題

2018年8月、東京医科大学の入学試験で女子受験者への一律減点など得点操作、不正入試が行われていたことが発覚。2013~16年度の医学科入試では109人が合格ラインを上回りながら不合格になったと第三者委員会が認定した。これを受け被害弁護団が結成、大学に対して入試成績の開示と慰謝料の請求を求める集団訴訟に発展しました。

広報に求められるポリコレ対策

広報に求められるポリコレ対策として最も気をつける必要があるのは、無意識のアンコンシャス・バイアスをまず捨てる事です。―――「アンコンシャス・バイアス」とは、直訳すると無意識の偏見。

例えば上記した「お母さん食堂」のように女性の役割、男性の役割といったジェンダーギャップを想起させるようなものがその代表例。その他、乳児は母乳で育てるべき。赤いランドセルは女の子用、黒いランドセルは男の子用といった思い込みもそれに該当。つい広告やPRでも使いがちな文脈であります。

また近年、注目されている「採用広報」においても注意が必要です。採用ミスマッチを避けようとするあまり、この分野で重要視されるペルソナ。―――「ペルソナ」とは自社で採用したい人材の属性(性別、年齢、家族構成)だけでなく、趣味やライフスタイルなどのストーリーも含めて人物像の設定を意味します。

つまりペルソナが厳格化されその意図が透けて見えてしまうと「それ以外の人は排除」というイメージを与えかねない。発信にはセンシティブになる必要があると思います。

熟知した上でポリコレを誠意のPRに生かす

他方で行き過ぎた「ポリコレ」は委縮に繋がります。充分、理解した上でなら広報にとってはむしろ好機と捉える事も出来ます。冒頭で紹介した【全てのブランドで「美白」という表現を使用しないと発表】した花王がその良い例。これまでの慣習を捨て「やっていたことをやめる」と発表するだけでニュースバリューがあります。

ただここで気をつけて欲しいのが「SDGs」に関連するPR施策のように積極的に「する」のではなく「しないことをする」という文脈を意識する事です。例えばやたら声高に「LGBT採用はじめました!」というような文脈だと「企業のPR活動にLGBTを利用するな」と反発を招きかねない。

そうではなく「これまでの負の慣習を捨てLGBTフレンドリーな会社に生まれ変わります」などと過去を清算した上での贖罪の意味を込めた表明がひいてはパーパスを造形する。「しないことをする」という誠意あるPRが求められています。

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